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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)10007号 判決 1987年5月29日

原告

加藤和美

被告

佐藤留男

ほか一名

主文

一  被告佐藤留男は、原告に対し、七三〇万八四三一円及び内六七〇万八四三一円に対する昭和五五年四月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告安田火災海上保険株式会社は、原告に対し、原告の被告佐藤留男に対する本判決が確定したときは、七三〇万八四三一円及び内六七〇万八四三一円に対する昭和五五年四月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの、各負担とする。

五  この判決は、主文第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自、一五〇〇万円及び内一四〇〇万円に対する昭和五五年四月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五五年四月一五日午後二時二〇分ころ

(二) 場所 山形県酒田市両羽町一二の五先国道七号線路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車両 普通乗用自動車(名古屋五九さ一二三〇)

右運転者 被告佐藤留男(以下「被告佐藤」という。)

(四) 被害車両 軽貨物自動車(六六山形あ三三一〇)

右運転者 原告

右同乗者 訴外工藤美奈子(以下「工藤」という。)

(五) 道路状況 本件事故現場の道路は、旧両羽橋を経由して酒田市東両羽町方面(北東)に通じる下り車線と新両羽橋を経由して鶴岡市方面(南西)に通じる上り車線とに分離された国道七号線であり、本件事故当時は、並行して最上川に架橋された新旧両羽橋の各北東端から約四〇メートル酒田市寄りの場所に上り車線と下り車線とを接続する進路変更用の幅員一二メートルの側道が設けられ、下り車線は、歩車道が区分され、車道は旧両羽橋北東端から右側道との交差点(以下「本件交差点」という。)付近までの間の有効幅員が七メートルで、これがさらに三・五メートル宛の二車線に区分されている。

(六) 態様 原告は、北西の堤町方面から旧両羽橋北東端で国道七号線下り車線にT字型に交差する最上川提防上の道路を進行し、右T字型交差点を右国道下り車線に左折し、次いで鶴岡市方面に進路を変更するため、左側車線から右側車線に進路変更をし、本件交差点を右折しようとしたところ、右国道下り車線の右側車線を被害車両の後方から直進してきた加害車両の左前部バンパーと被害車両の右後部フエンダー付近とが衝突し、その衝撃で被害車両は本件交差点東側のガードレールの支柱に衝突した。

(右事故を、以下「本件事故」という。)

2  責任

(一) 被告佐藤は、加害車両を保有し自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、損害賠償責任がある。

(二) 被告安田火災海上保険株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告佐藤との間で、加害車両について、本件事故当日を保険期間内とする自動車保険契約を締結しており、その約款である自動車保険普通保険約款には、被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で判決が確定したとき等の場合に、損害賠償請求権者が被告会社に対して、直接損害額の支払を請求することができる旨の条項がある。

3  傷害、治療経過及び後遺障害

(一) 原告は、本件事故により加療約二週間を要する顔面及び右膝部挫創等の傷害を負い、昭和五五年四月一五日から同年五月一日まで一七日間市立酒田病院に、同年九月一〇日から同月一八日まで及び昭和五六年五月二一日から同月二七日までの一六日間市立荘内病院にそれぞれ入院したほか、昭和五五年五月八日から昭和五六年六月二日までの間に実日数一三日及び昭和五八年一二月一〇日の合計一四日通院して治療を受けたが、昭和五八年一二月一〇日症状固定の診断を受け、両上眼瞼及び前額部に長さ合計一九センチメートルの線状の瘢痕拘縮、瞳孔の収縮不全、左外傷性散瞳の後遺障害が残つた。右後遺障害は、女子の外貌に著しい醜状を残すものとして、自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)第七級に該当する。

(二) 工藤は、本件事故により、加療約一か月を要する顔面挫創の傷害を負つた。

4  損害

(一) 治療費、診断書料 合計四五万七二六七円

(1) 市立酒田病院分 三二万四四〇六円

(2) 市立荘内病院分 一三万二八六一円

(二) 入院雑費 三万三〇〇〇円

原告は、前記の三三日間の入院中、一日当たり一〇〇〇円の雑費を支出した。

(三) 付添看護料 一七万六七八一円

原告は、前記の三三日間の入院中、一日当たり五三五七円の付添看護料を支出した。

(四) 通院交通費 一万八二〇〇円

原告は、前記の一四日間の通院につき、交通費として片道六五〇円、合計一万八二〇〇円を支出した。

(五) 休業損害 五〇八万一六五〇円

原告は、昭和一九年二月二二日生れの女子であり、主婦として家事に従事する傍ら、夫の経営する個人営業の自動車販売修理店「加藤ホンダ」に勤務していたところ、前記受傷のため、本件事故当日から症状固定日である昭和五八年一二月一〇日までの一三三五日間のうち、入通院日の四七日間は一〇〇パーセント、その余は七〇パーセント労働能力を喪失したから、一日当たりの収入を五三五七円として、原告の休業損害を算定すると、その金額は、入通院日の四七日間は二五万一七七九円、その余は四八二万九八七一円の合計五〇八万一六五〇円となる。

(六) 逸失利益 一六三一万二八七五円

原告は、前記後遺障害により、症状固定時の三九歳から六七歳まで二八年間、五六パーセントの割合で労働能力を喪失したから、前記収入を基礎に、年五分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を算定すると、その合計額は一六三一万二八七五円となる。

(七) 慰藉料 九〇〇万円

前記の原告の傷害の部位、程度、治療経過、後遺障害の部位、程度等によれば、原告の傷害に対する慰藉料は二〇〇万円、後遺障害に対する慰藉料は七〇〇万円が相当である。

(八) 物損関係 合計五三万三〇〇〇円

(1) 車両損害 四五万三〇〇〇円

原告は、本件事故による被害車両の損傷により右金額の損害を被つた。

(2) ガードレール等の損害 八万円

原告は、本件事故により損傷したガードレール等の修理費用として右金額を支出した。

(九) 工藤への給料支払分 六四万円

工藤は、本件事故当時、「加藤ホンダ」に勤務して、月額八万円の給与の支払を受けていたが、前記受傷のため、本件事故後は稼働できない状況にあつたところ、原告は、工藤に八か月間合計六四万円を支払つた。

(一〇) 弁護士費用 一〇〇万円

原告は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その着手金として三〇万円を支払つたほか、七〇万円を支払う旨約した。

5  結論

よつて、原告は、被告ら各自に対し、本件事故による損害賠償として、前記損害の内弁護士費用を除く損害の内金一四〇〇万円と弁護士費用一〇〇万円の合計一五〇〇万円及び内弁護士費用を除く一四〇〇万円に対する本件事故発生の日である昭和五五年四月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

2  同2(責任)の(一)のうち、被告佐藤が加害車両を保有し自己のため運行の用に供していた者であること、及び同(二)の事実は認める。

3(一)  同3(傷害、治療経過及び後遺障害)の(一)の事実中、原告が、本件事故により加療約二週間を要する顔面及び右膝部挫創等の傷害を負い、昭和五五年四月一五日から同年五月一日まで一七日間市立酒田病院に、同年九月一〇日から同月一八日まで及び昭和五六年五月一二日から同月二七日までの一六日間市立荘内病院にそれぞれ入院したほか、昭和五五年五月八日から昭和五六年六月二日までの間に実日数一三日及び昭和五八年一二月一〇日の合計一四日通院して治療を受けたこと、原告に、両上眼瞼及び前額部の瘢痕、左眼瞳孔の収縮不全の後遺障害が残つたことは認め、その余は争う。

(二)  同(二)の事実は不知。

4  同4(損害)の事実中、(一)ないし(四)及び(八)ないし(一〇)の事実はいずれも不知。

同(五)のうち入通院日の四七日間の休業損害二五万一七七九円を超える休業損害の発生は否認する。

同(六)の事実は否認し、同(七)の慰藉料額は争う。

5  同5(結論)の主張は争う。

三  抗弁

1  免責

本件事故は、被告佐藤が加害車両を運転して、国道七号線下り車線の右側車線の右寄りを時速約五〇キロメートルで進行し、本件交差点に差しかかつた際、左側車線を進行していた原告運転の被害車両が、右側車線に入る際、右側車線後方の安全を確認しないまま、いきなり右折したために生じたもので、原告の一方的な過失によつて発生したものである。

被告佐藤としては、加害車両の直前に被害車両が車線を塞ぐ恰好で飛び込んでくることは予見不可能なことであり、至近距離であるから、衝突を回避することも不可能であつたものである。

加害車両には、構造上の欠陥も機能の障害もなかつた。

したがつて、被告佐藤は、自賠法第三条但書の規定により免責され、被告会社も責任を負うことはない。

2  過失相殺

仮に、被告佐藤に何らかの過失が認められるとしても、原告には、本件事故の発生につき九割の過失があるから、過失相殺がなされるべきである。

3  弁済

原告は、本件事故による損害に対するてん補として、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から傷害保険金として二五万円、後遺障害保険金として二九九万円の支払を受けている。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1及び同2の事実は否認し、免責及び過失相殺の主張は争う。

2  同3の弁済の事実は認める。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。また、同2(責任)の(一)のうち、被告佐藤が加害車両を保有し自己のため運行の用に供していた者であること、及び同(二)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、免責及び過失相殺の主張について判断する。

1  前示の争いのない事実に、成立に争いのない甲第一三号証、乙第四ないし第九号証、第一〇号証(後記措信しない部分を除く)、第一一、一二号証、第一三号証の一ないし七、原本の存在と成立に争いのない甲第一二号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、

(一)  本件事故現場の道路は、旧両羽橋を経由して酒田市東両羽町方面(北東)に通じる下り車線と、新両羽橋を経由して鶴岡市方面(南西)に通じる上り車線とに分離された国道七号線であり、本件事故当時は、並行して最上川に架橋された新旧両羽橋の各北東端から約四〇メートル酒田市寄りの場所に上り車線と下り車線とを接続する進路変更用の幅員一二メートルの側道が設けられ、下り車線は、歩車道が区分され、車道は旧両羽橋北東端から本件交差点付近までの間の有効幅員が七メートルで、これがさらに三・五メートル宛の二車線に区分されていること、

(二)  原告は、北西の堤町方面から旧両羽橋北東端で国道七号線下り車線にT字型に交差する最上川堤防上の道路を進行し、右T字型交差点の直前で一時停止して車両を約一〇台通過させたのち、車両が途切れたため、右T字型交差点を右国道下り車線の左側車線に左折し、次いで徐々に左側車線から右側車線に進路変更をし、時速約二〇キロメートルで進行して、さらに鶴岡市方面に進路を変更するため、本件交差点を右折しようとしたこと、その際、被害車両の右後部フエンダー付近に右国道下り車線の右側車線を被害車両の後方から直進してきた加害車両の左前部バンパー付近が追突し、次いで、加害車両の左前部が被害車両の右前部ドア付近に衝突し、その衝撃で被害車両は本件交差点東側のガードレールの支柱に衝突したこと、

(三)  被告佐藤は、加害車両を運転して、国道七号線下り車線の右側車線を時速約五〇キロメートルで進行中、右のとおり加害車両を被害車両に衝突させたが、その際、被害車両との衝突の直前まで被害車両の存在に気付いていなかつたこと、

(四)  右衝突により、被害車両はその右側運転席ドア付近が、加害車両はその左前部がそれぞれ損傷したほか、被害車両の右側後部フエンダーには、加害車両の左前部バンパー付近に追突された際に生じたとみられる擦過痕が残されていること、

(五)  本件事故現場の路面には、右側車線上に、被害車両によつて印象されたとみられるやや右に湾曲した二条のローリング痕、及び、さらにその右側に、加害車両によつて印象されたものとみられる「く」の字型に曲がつた二条のスリツプ痕がそれぞれ残されていること、

以上の事実が認められる。

2  被告らは、本件事故は、左側車線を進行していた原告運転の被害車両が、右側車線に入る際、右側車線後方の安全を確認しないまま、いきなり右折したために生じたものである旨主張し、被告佐藤の証人尋問調書である乙第一〇号証中には、これに沿う記載がある。

しかしながら、被告佐藤が被害車両との衝突の直前まで被害車両の存在に気付いていなかつたことは前示のとおりであるのみならず、前示の被害車両によつて印象されたとみられる二条のローリング痕がやや右に湾曲していることからみて、被害車両は、若干右回転しながらローリング痕を印象したものと考えられるところ、右折しようとした被害車両の右側運転席付近と加害車両の左前部とが衝突したことによつては、被害車両が右回転の力を受けることは考えられず、被害車両の右後部フエンダーの擦過痕と合わせ考えると、右折のため若干右に進路を向けていた状態の被害車両の右後部フエンダー付近に加害車両の左前部が追突する形で接触したため、被害車両が右回転の力を受けたものと考えられるところであり、また、加害車両は、右の一回目の接触ののち、再びその左前部を被害車両の右側運転席付近に衝突させたため、加害車両による二条のスリツプ痕が「く」の字型に曲がつたものと考えられること等の事情を勘案すると、乙第一〇号証中の被害車両が左側車線からいきなり右折した旨の部分はたやすく措信することができず、そのほか前示の認定を左右するに足りる証拠はない。

3  前記認定事実によれば、被告佐藤には、前方不注視により被害車両との衝突の直前までこれに気付かなかつた過失があるもの認められるから、被告らの免責の抗弁は理由がないものというべきである。

したがつて、被告佐藤には、自賠法第三条の規定に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任があるものというべきであり、また、被告会社には、前示の自動車保険契約に基づき、原告の被告佐藤に対する本判決の確定を条件として、損害賠償責任額の支払をなすべき責任があるものというべきである。

4  また、前示のとおり、本件事故は被害車両が既に右側車線に入つたのち、加害車両がこれに追突する形で第一回目の接触が生じているもので、原告には、左側車線からいきなり右折しようとした過失があるとは認められないし、そのほか、原告に過失相殺をしなければならない程の過失があることを認めるに足りる証拠はないから、被告らの過失相殺の抗弁も理由がないものといわざるをえない。

三  次に、傷害、治療経過及び後遺障害について判断する。

1  原告が、本件事故により加療約二週間を要する顔面及び右膝部挫創等の傷害を負い、昭和五五年四月一五日から同年五月一日まで一七日間市立酒田病院に、同年九月一〇日から同月一八日まで及び昭和五六年五月二一日から同月二七日までの一六日間市立荘内病院にそれぞれ入院したほか、昭和五五年五月八日から昭和五六年六月二日までの間に実日数一三日及び昭和五八年一二月一〇日の合計一四日通院して治療を受けたこと、原告に、両上眼瞼及び前額部の瘢痕、左眼瞳孔の収縮不全の後遺障害が残つたことは、当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第二、第四、第五号証、乙第一号証の一ないし三、第二号証の一、二、原告を撮影した写真であることに争いがなく、原告本人尋問の結果により昭和六一年二月から三月ころ撮影したものと認められる甲第三号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、

(一)  原告は、前示の二回にわたる市立荘内病院入院のうち、一回目の昭和五五年九月には、眉間に入つているガラス破片を取り出す手術を受け、二回目の昭和五六年五月には、顔面の傷痕を改善するための形成手術を受けたこと、

(二)  昭和五五年九月に一回目の手術を受ける前の原告の顔面の醜状の程度は極めて著しいものであり、また、右手術ののちも、手術前より若干改善された程度で、醜状は依然として著しかつたこと、しかし、昭和五六年五月に二回目の手術を受けたのちは、相当に改善してきたこと、

(三)  原告は、昭和五八年一二月一〇日市立荘内病院において症状固定の診断を受け、両上眼瞼及び前額部に長さ合計約一九センチメートルの瘢痕拘縮、左眼瞳孔の収縮不全、眼瞼の閉鎖不全(右側が閉眼時約二ミリメートル開いている)の後遺障害が残存しており、醜状は中程度との旨の診断を受けたこと、

(四)  原告は、昭和六〇年二月一五日に、自賠責保険の山形調査事務所の担当者である佐藤多次郎の面接調査を受け、その際、原告の顔面には、前額部に長さ四センチメートル、両眼瞼に長さ三・五センチメートル及び二センチメートル、両頬部に長さ三センチメートル及び二センチメートル、鼻背部に長さ一・五センチメートルのそれぞれ整形手術後の線上痕が認められるが、色素沈着は薄く、著しい醜状には該当しないとの判断を受けたこと、

(五)  原告は、昭和六〇年三月二五日に、自賠責保険の査定により、顔貌醜状につき等級表第一二級一四号該当、眼瞼の閉鎖不全につき等級表第一二級二号該当、瞳孔の収縮不全につき等級表第一四級相当として、併合一一級の認定を受けたこと、

(六)  原告の顔面の瘢痕の状態は、昭和六一年七月一八日及び同年九月五日の原告本人尋問期日ころにおいては、眉間の線上痕が多少人目につくほかは、左程目立たない状態にまで改善してきていること、

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  右の事実によれば、原告の顔貌醜状の程度は、昭和五五年九月の第一回目の手術の前においては、等級表第七級一二号の「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」に該当するものとみられ、また、昭和五六年五月の第二回目の手術の前においても、右等級に該当するものというを防げないものの、右第二回目の手術ののち、殊に、前示の症状固定時以降においては、相当に改善されてきているもので、等級表第一二級一四号の「女子の外貌に醜状を残すもの」に該当するにすぎないものと認めるのが相当である。

そして、前示の眼瞼の閉鎖不全及び瞳孔の収縮不全をも勘案すると、原告の後遺障害は、等級表併合一一級に該当するものと認めるのが相当である。

4  前掲乙第一一号証及び原告本人尋問の結果によれば、工藤は、本件事故により顔面に傷害を負い、市立酒田病院に入院したほか、市立荘内病院に入院して二回にわたる形成手術を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

四  続いて、損害について判断する。

1  治療費、診断書料 合計四五万四二六七円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第六、第七号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、前示の市立荘内病院における治療費として一三万二八六一円、市立酒田病院における治療費として七万五二七一円を支出したほか、工藤の市立酒田病院における治療費として二四万六一三五円を支出していることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  入院雑費 三万三〇〇〇円

前示の原告の治療経過等によれば、原告は、前示の三三日間の入院中、一日当たり一〇〇〇円の雑費を支出したものと推認することができ、右推認を覆すに足りる証拠はない。

3  付添看護料

原告が、前示の三三日間の入院中、付添看護を必要としたことを認めるに足りる証拠はないから、原告の付添看護料の請求は理由がないものといわざるをえない。

4  通院交通費

前示の原告の治療経過等によれば、原告は前示の一四日間の通院につき相当額の交通費を支出したものと認められるが、その具体的な金額を認めるに足りる証拠はないから、右交通費の点は、慰藉料算定において考慮することとする。

5  休業損害 二一七万四四〇五円

前掲甲第二号証、成立に争いのない乙第三号証及び原告本人尋問の結果によれば、

(一)  原告は、昭和一九年二月二二日生れの女子であり、主婦として家事に従事し、昭和四三年九月一九日生れの長男正勝及び昭和四七年一一月一四日生れの長女恵美を養育する傍ら、夫安孝とともに個人営業の自動車販売修理店「加藤ホンダ」を経営し、経理事務、顧客との応対、セールス、自動車の配送等に従事して、名目上、月額七万円の給与の支給を受けていたこと、

(二)  しかるに、原告は、前示の受傷により、入院中(三三日間)は全く稼働できず、また、昭和五五年九月に一回目の手術を受ける前までは、店の仕事はもとより、家事もできず、夫の母に家事をして貰つていたこと、

(三)  次いで、原告は、家事は多少はできるようになつたものの、昭和五六年五月に二回目の手術を受けるまでは、顔貌の醜状が著しかつたため、客の面前に出ることはできなかつたこと、

(四)  その後、原告は、右の二回目の手術ののちは、顔面の傷痕も次第に改善されてきたものの、前示の目の障害のため、目を使う事務関係の仕事及び自動車の運転に不自由を感じており、長時間の自動車を運転することはできない状態であり、また、近時でも、顔面に入つたガラス破片が出てくることもある状態であること、

(五)  「加藤ホンダ」においては、右の原告の休業に伴い、女子従業員三名を雇用し、内二名は昭和五八年一二月ころまで、残る一名は昭和六一年五月ころまで稼働していたこと、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、原告は、前示の症状固定日までの間、入院中(三三日間)については一〇〇パーセント、入院中を除く二回目の入院まで(昭和五五年五月二日から同年九月九日まで、及び同月一九日から昭和五六年五月二〇日までの合計三七五日間)については平均して五〇パーセント、二回目の入院後症状固定日まで(昭和五六年五月二八日から昭和五八年一二月一〇日までの九二七日間)については二〇パーセントの各割合で労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。

また、原告は、その休業損害及び逸失利益につき、基礎収入額を日額五三五七円として計算し主張しているところ、前示の原告の稼働状況及び右日額が昭和五六年賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、女子労働者、学歴計、全年齢平均給与額である年額一九五万五六〇〇円にほぼ相当すること等を勘案すると、基礎収入額としては、原告主張の日額をもつて相当と認めることができる。

以上によれば、原告の休業損害額は、次の計算式のとおり、二一七万四四〇五円となる。

5,357×33×1=17万6,781

5,357×375×0.5=100万4,437(一円未満切捨)

5,357×927×0.2=99万3,187(一円未満切捨)

合計=217万4,405

6  逸失利益 二一一万三七五九円

原告の前示の後遺障害の内容、程度によれば、後遺障害のうち、顔貌醜状については、労働能力に左程の影響があるものとは認められないものの、近時の稼働状況、殊に、前示の目の障害のため、目を使う事務関係の仕事及び自動車の運転に不自由を感じており、長時間の自動車を運転することはできない状態であり、また、近時でも、顔面に入つたガラス破片が出てくることもある状態であること等の事情を勘案すると、原告は、少なくとも、その後遺障害により症状固定時の三九歳から一〇年間、一四パーセントの割合で労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。

よつて、前示の日額を基礎にライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は二一一万三七五九円(一円未満切捨)となる。

5,357×365×0.14×7,7217=211万3,759

7  慰藉料 四〇〇万円

前示の原告の傷害の部位、程度、治療経過、後遺障害の部位、程度等によれば、原告の傷害及び後遺障害に対する慰藉料は合計四〇〇万円をもつて相当と認める。

8  物損関係 合計五三万三〇〇〇円

(一)  車両損害 四五万三〇〇〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第九号証の一ないし四及び原告本人尋問の結果によれば、被害車両の本件事故による損傷に対する修理見積額は六三万四六〇〇円であつたこと、実際には被害車両は修理をすることなく廃車とされたこと、被害車両は「加藤ホンダ」の顧客の所有の自動車であつて、車検のため車検場に行く途中で事故に遭つたものであり、そのため原告は新車を購入して顧客に返還すことを余儀なくきれたことが認められ、右認定を覆すに足りる確実な証拠はない。

右の事実によれば、本件事故による被害車両の車両損害としては、原告主張にかかる四五万三〇〇〇円をもつて損害と認めることができる。

(二)  ガードレール等の損害 八万円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一〇号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により損傷したガードレール等の修理費用として八万円を支出したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

9  工藤への給料支払分 六四万円

前掲乙第一一号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第八号証の一ないし三及び原告本人尋問の結果によれば、工藤は、本件事故当時、加藤ホンダに勤務して、月額八万円の給与の支給を受けていたが、前示の受傷のため、本件事故後は稼働できない状況にあつたところ、「加藤ホンダ」においては、工藤に対し、その間少なくとも八か月にわたり給与として月額八万円、合計六四万円を支払つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実関係によれば、「加藤ホンダ」は、工藤の生活を維持するため、右給与の支払を余儀なくされたものと推認することができ、右推認を覆すに足りる証拠はなく、これに、「加藤ホンダ」は、個人営業として原告の夫が原告とともに経営しているものであることを勘案すると、「加藤ホンダ」において工藤に支払つた右の六四万円は、本件事故と相当因果関係のある損害として、原告において被告らに対し請求しうべきものというべきである。

10  損害のてん補 三二四万円

原告が、本件事故による損害に対するてん補として、自賠責保険から傷害保険金として二五万円、後遺障害保険金として二九九万円の支払を受けていることは、当事者間に争いがない。

よつて、前示の損害の合計額九九四万八四三一円からこれを控除すると、残額は六七〇万八四三一円となる。

11  弁護士費用 六〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬を支払う旨約したことが認められるところ、本件事案の難易、前示認容額、その他本件において認められる諸般の事情を勘案すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、六〇万円をもつて相当と認める。

五  以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として、被告佐藤に対し、七三〇万八四三一円及び内弁護士費用を除く六七〇万八四三一円に対する本件事故発生の日である昭和五五年四月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告会社に対し、原告の被告佐藤に対する本判決の確定を条件として、七三〇万八四三一円及び内弁護士費用除く六七〇万八四三一円に対する本件事故発生の日である昭和五五年四月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林和明)

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